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電車男と名もなき人々(その1)
去年、祖父母の金婚式の際に叔父に会ったんですが、その時に「『電車男』を読んだよ」というようなことを言っていました。
『電車男』をご存知ない方のために軽く説明すると、匿名掲示板2ちゃんねるで書き込まれた、ある男性の「体験談」──電車で酔っ払いから助けた女性との恋物語──が、本になって出版されたものです。確か10月の発売だったけど、今でも平積みの本屋はけっこうあるんじゃないかな。マスコミを巻き込んで大きなブームになりました。
叔父は2ちゃんねるなんか見ていなさそうな感じなので(わからない、ひょっとしたら見てるのかもしれないけど)、あぁ2ちゃんねる発祥書籍も随分と一般に認知されるようになったのだなぁ、という印象しか受けなかったんですが、最近になってちょっと考え方が変わってきました。

このストーリーの中核となる人物を並べると、こんな感じです。
まず主人公となる通称「電車男」。典型的なオタクであるという彼は22歳、女性との交際経験なし。ある日電車で女性を助けたことからストーリーは始まります。
ヒロインの通称「エルメス」。電車で助けてもらった女性は、彼にエルメスのペア・ティーカップを贈りました。上品なお嬢様で、彼女も電車男に惹かれていきます。
普通の恋愛小説なんかでは、このふたりがいればそれでお話になるところですが、これは「現実に進行したストーリー」のため、外して語れない登場人物がもう「ひとり」います。それは掲示板を通じて電車男を叱咤激励し、励まし、罵倒した「2ちゃんねらー」ひとりひとり。彼らがいたからこそ、電車男とエルメスは仲良くハッピーエンドを迎えることができたと言えるでしょう。
そして、その長期にわたるやりとりをまとめて、一般に広く知らしめたのが「まとめサイト」管理人「中の人」氏。彼のサイトの内容が書籍化されたものが、現在店頭に並んでいる書籍版「電車男」です。

さて。僕が「電車男」を通じて何を考えたか、ちょっと書いてみようと思います。



この話は、今やなかなか複雑になっていて、簡単に説明できるものではありません。
なのでうまく書けるかわからないけれど、ちょっと挑戦してみます。長くなるから何回かに分けようかなと思っています。

そもそもこの混乱が始まったのは、「電車男」がそのストーリーを語り終えた頃のこと。

上記の簡単な説明を読んでいただければわかる通り、物事の流れ自体は世の中にありふれている恋愛小説によくあるような展開です。そして、ありふれている話の展開だけに、この話が進行している最中にも「これは作り話なんじゃないか?」との疑問を持つひとが少なくありませんでした。
ただ、2ちゃんねるに少し慣れた方ならおわかりのように、そういった展開のスレッドは珍しくありません。誰かが悩みを打ち明け、見知らぬ誰か(匿名掲示板なので名前もわかりません)が真剣に、時に辛辣にそれに助言する。そんなスレッドはずっと前からあったし、今現在だって各地の板にいくつも立っているはずです。
ということで、リアルタイムで電車男関連のスレッドに書き込みをしていた方々は、恐らくそのあたりを承知の上で書き込んでいたはずです。つまり「本当にあった話なのか、あるいは作り話なのか、それは誰にもわからない」……それをわかった上で自らも参加して、書き込みをしていたはず。だから事実関係がおかしな点にも、電車男の批判すべき行動にも、しっかりと突っ込みが入れられながらスレッドは進んでいました。

ところが、まとめサイトを見てみると、そういった電車男に対してネガティブな反応は一切排され、一生懸命頑張る電車男とそれを暖かく励ます2ちゃんねらーばかりのストーリーに編集されています。
そして出版の話。まとめサイト管理人「中の人」氏はスレッドに相談します。今回の出来事を本にしないかと持ちかけられた、どうするべきだろう。スレッドの住人は答えます。ふたりの日常を平和なものにしておきたいから、これ以上話を大きくするべきではない。書籍化には反対だ。中の人はなるほどと納得したかたちでスレッドを去り、次に登場する時には「書籍化が決定した」との事実報告をいきなりしています。

そして広く世の中に出たのは、綺麗に磨き上げられ、包装された「ノンフィクション」の恋愛ストーリー。
どうですか? ちょっと首を傾げたくなりません?

例えばこれがニュースなら、事実を改ざんしたとして厳しく糾弾されるところ。
別に2ちゃんねる内やネット内だけで収まっているうちは、この問題はそこまでのものなんです。ただ、世の中のひとはこれがありのままの電車男だと思って本を読んでいる。おまけにその後、理想化された2ちゃんねらーを求めて2ちゃんねるにアクセスしてまでいる。当然そこで激しい叩きにあう(2ちゃんねるっていうのはそういうとこです)、そして理想と現実とのギャップにがっかりしてしまい、また一般の2ちゃんねるの評判が悪くなる。なんだかなぁ、と以前から2ちゃんねらーの僕は思うわけです。

じゃあ、誰がいけなかったのか。
僕の個人的な意見を言わせてもらえば、別に2ちゃんねるでネタを書こうがそれを綺麗にまとめようが、別に問題ないと思うんですよ。上の方で、綺麗にまとめた中の人を責めるような内容を書いたけれど、それ自体は別に罪になるほどではない。
問題なのは、それを読んで、世の中に広く知って欲しい、そう思った新潮社の某氏。このひとが、まとめサイトをベタでそのまま本にするのではなく、きちんとしたリサーチをして、スレッドの再編集をしてから世の中に出せば、今みたいな混乱は生まれなかったんじゃないか。このひとが「ノンフィクションのラブストーリー」ではなく、「この話は嘘か本当かわからないけれど、彼らの気持ちは本物だった」というようなかたち売り出していれば、もう少し一般のひとたちの認知は変わっていたんじゃないか。僕はそう思います。
実際に行われたことは、中の人のまとめサイトをそのまんま本にしただけ。それだけで巨額の利益が中の人と新潮社の手に入り、そこに目をつけた各種メディアはメディアミックス展開を目論む。
今、電車男はコミック誌3つで連載、ひとつで読み切り、そして映画とテレビドラマが企画されている。そしてその全てが、例の「綺麗な」電車男でしょう。恐らくは。

こういった企画を立ち上げるひとたちは、世の中に何かを伝える立場にあるという自覚がなさすぎるんじゃないでしょうか。お金を儲けられればそれでいい、そんな思惑が見て取れて吐き気がします。
2ちゃんねるを知らない(であろう)叔父が知っているくらい、今や電車男は大きくなっています。2ちゃんねる発祥の書籍が広く浸透するのはけして悪いことではない、僕は新しいかたちのメディアとして2ちゃんねるには期待しているんです。ただ、それを漂白してから世の中に出したのでは、それが2ちゃんねるである意味がない。何故ありのままを見せようとしないのだろう?

結局、世の中が「綺麗に包装された物語」を望んでいるということなんでしょうか。
僕はそうは思いたくないんですけども。
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by tanglewire | 2005-01-05 18:36 | etc.
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